chapter1-2 ジュース

chapter1-2 ジュース

 フィジーの首都スバから東京に戻る途中トランジットでオーストラリアのシドニーに10時間だけ滞在した。初めてのシドニーの街を散歩した感想は「白人の街」だ。重厚な石造りの外壁の建築物が並ぶ街並みは、洗練されてはいるが西欧の文化以外は全く寄せつけない冷たさを感じる。

 日本人は日本やアジア圏にいると感じることはできないが、そこから抜けると否応なしにこの世の中で自分がマイノリティーで被差別の対象であると認識することができる。

 でもカスケは自分がマイノリティーであることが心地よかった。時々差別を受けるけど、西欧社会において東洋人の自分がマイノリティーであることが誇らしかった。いや本当はマジョリティーだろうがマイノリティーだろうがどうでも良かったのだ。若かったし、何より自分に自信があったから。

 でもその「自信」って「才能」とは違う。

 多分それは「未来」。

 「自信」がある、というのは、「未来」がある、に言い換えられる。

 だからその時のカスケは若かっただけなのだ。デビュー前から椎名林檎や宇多田ヒカルも当然「自信」があったに違いない。デビューしようがしまいが、売れようが売れまいが、彼女たちは「自信」があっただろうけど、カスケと違うのは彼女らには「才能」もあったのだ。しかも圧倒的な「才能」だ。

 一言に「才能」と言ってもそれを開花させるための努力、運、メンタルなど様々な要素が合わさって本当の「才能」なのかもしれない。まぁとにかく才能だ、運だ、とか言ってる時点で「才能」がないのだろう、なぁカスケ。

 シドニーのオペラハウスの近くには洒落たレストランがいくつも並んでいた。ほとんどの客が開放的なテラス席で友人たちとお酒を飲みながら最高の時間を楽しんでいた。その日のシドニーの夕方は、「いま自分は人生を謳歌してる」と確信できるような真っ青な空だった。

 そんな素晴らしい空の下にいるとカスケもビールが飲みたくなった。フライトの時間を考えると1時間ぐらいはビールを飲む時間がある。時間はあるがひとりでレストランに入る勇気はなかった。たぶんどのレストランもひとり客は皆無だ。でもどうしてもビールが飲みたい。なので一緒にビールを飲むヤツを探すことにした。下心があるわけではないので男女問わず面白そうなヤツと1時間ほど一緒にビールを飲めればいいのだ。

 結局1時間で探すのは、無理だった。(時間のせいにしただけ)

 その結果、売店でコーラを買って飲んで、記念にスマホで自撮り。

 カスケはシドニーから空港に向かう電車の中で思った。「オレは本当ジュースねーなぁ」


※圧倒的な才能

天才と言われるような圧倒的な才能の持ち主を目の当たりにすると、まるで神のように崇めてしまうのは集団生活をする動物の特性なのだろうか?(記述2020/07/22)

※真っ青な青空

南半球の青空は日本のそれと違う。青が濃い。空が広いのか。海外だからそんな気がするだけなんだろう、たぶん。(記述2020/0722)

※男女問わず面白そうなヤツとビールを飲む

私が若い頃やっていた遊び「beercampビアキャンプ」です。(記述2020/0722)